土曜日の昼下がり。
にこにこしながら、白髪の初老の男性が入ってこられました。
ゆっくり、店内を見渡して、明るいピンクの大輪のバラに目をとめて、「これがいいなァ」と。
バラを1本、持って帰っていかれる姿を見送りながら、もう一年になるんだぁと私は思い出していました。
一年前の夕方、入ってこられた時も、にこにことゆっくり歩いてこられました。きれいな白髪をきちんとなでつけて、シャツのすそはきちりとジャージにしまわれています。いろいろなお客様がいらっしゃるムギハナですが、初老の男性おひとり、というのはさすがに珍しい。
鉢植えか何かの相談かな、店内でホリーと話すのを目の端で見ながら、私は思っていました。
その後、その男性は淡いピンクのイングリッシュローズを1本、持って出てこられました。
そのバラは、その日の仕入れで一番のお気に入りのバラでした。
今のお客様は?と聞いた私に、ホリーが教えてくれたのが、こんなお話です。
いつも、わんこと散歩してたんだって、ムギハナの前を。
そのわんこが亡くなっちゃったんだって。
だから、そのこのところに、花を活けるんだって。
。。。。。。。
それから、ひとつき後。
その男性は、またにこにことムギハナにやってきました。
ゆっくり店内を見渡して、「これがいいなァ」
二度目いらした時選んだのは、明るいオレンジ色のダリアでした。
よい香りのするバラ、うんと大輪のラナンキュラス。。。。
だいたい一月に一度、その人はやってきます。
私達は思わず背筋をしゃんと伸ばして、迎えます。